副業

今なぜ「副業介護」が求められるのか?介護職を副業で働く可能性を探る

少子高齢化が進む日本社会において、介護人材の不足は深刻な社会問題となっています。一方で、働き方改革の一環として副業を認める企業が増え、新たな働き方のスタイルとして「副業」が注目されています。

この二つの社会現象が交わる「副業介護」という選択肢がクローズアップされています。

  • 平日はオフィスワーク、週末は介護施設でケアのお手伝い
  • 子育てが落ち着いた主婦が午前中だけデイサービスでサポート
  • 定年退職後のセカンドキャリアの準備として介護の資格取得を目指す

様々なライフスタイルに合わせた「副業介護」の可能性を探ってみましょう。

超高齢社会の現実と副業介護の可能性

高齢化率が上昇し続ける日本。介護人材の確保は喫緊の課題となっています。そんな中、副業として介護の仕事に従事する人が増えつつあります。慢性的な人手不足の介護現場で、多様な働き方を選ぶ人材が求められているのです。

日本の介護人材不足は深刻レベル!その実態とは

厚生労働省の推計によると、日本では2026年度までに約25万人の介護職員が不足するとされています。さらに2040年度には約57万人もの人材が不足する見込みです。現在約215万人が働く介護職場において、この数字は極めて深刻です。

2025年には団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となる「2025年問題」も迫っており、介護ニーズはさらに高まることが予測されています。介護現場では常に人手が足りない状況が続いており、人材確保が急務となっているのです。

このような背景から、厚労省や自治体は「多様な人材の参入促進」を掲げ、主婦や定年退職者、他業種の社会人など幅広い層に介護分野への参加を促しています。その一環として、本業を持ちながら「副業」として介護の仕事に携わる選択肢が注目されているのです。

出典:介護人材確保に向けた取組

働き方改革と副業解禁の流れ

かつて日本企業では「副業禁止」が当たり前でしたが、今やその常識は大きく変わりつつあります。政府は2018年に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表し、2022年7月にはさらに改定。副業を推進する流れが加速しています。

経団連の調査によれば、約70.5%の企業が社員の副業・兼業を「認めている」または「認める予定」と回答。特に大企業(従業員5000人以上)では約8割が副業を認め、働き方の多様化が進んでいます。

パーソル総合研究所の調査では、2023年時点で60.9%の企業が副業を容認し、正社員の約40.8%が副業に興味を示しているとのこと。もはや副業は特別なことではなく、ライフワークバランスを実現する選択肢として定着しつつあります。

出典:「副業・兼業に関するアンケート調査結果」(経団連)

出典:「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」(パーソル研究所)

介護業界も副業ウェルカム!多様な人材を求める現場

介護業界自体も、副業人材の受け入れに積極的になっています。先ほどのパーソル総研の調査では、医療・介護・福祉業界の約70.4%が副業を何らかの形で容認しています。

また、現在介護職として働いている人の約12.7%が別の副業にも従事しているという調査結果もあります。この数字は全職種平均(約10.9%)よりもやや高く、すでに介護現場ではダブルワークが珍しくない状況となっています。

介護業界ではシニア層や子育て後の主婦層など、多様な人材が非常勤スタッフとして活躍しています。訪問介護員(ホームヘルパー)の年齢構成を見ると、60歳以上が全体の約38.5%を占めるというデータもあり、様々なバックグラウンドを持つ人々が介護現場を支えているのです。

出典:副業の実態・意識調査 調査報告書(パーソル研究所)

副業介護はこんな人にピッタリ!その魅力と適性

副業として介護の仕事を選ぶメリットはどんなところにあるのでしょうか。時間の融通が利きやすい点や、未経験からでも始められる職種がある点など、副業としての魅力を探ってみましょう。

時間の融通が利く!シフト制で働きやすい介護の現場

介護施設は24時間体制やシフト制で運営されているため、「週末だけ」「夜間のみ」「午前中だけ」といった働き方が可能です。多くの施設では「週1回からOK」「土日のみ勤務可」といった柔軟な勤務形態を用意しており、本業との両立がしやすい環境があります。

特に人気なのが「夜勤専従」のスタイル。平日は通常の仕事をしながら、週末の夜だけ介護施設で勤務するという働き方です。夜勤は手当も手厚いため、月に数回働くだけでもまとまった収入を得られます。夜勤明けは通常休みとなるため、本業の勤務時間と被らないというメリットもあります。

訪問介護やガイドヘルパーなどは「直行直帰」が可能なケースも多く、自宅から利用者宅へ直接訪問し、サービス終了後は直接帰宅できます。1回のサービスが1〜2時間程度なので、空いた時間を有効活用しやすい点も副業として魅力的です。

未経験でも始められる!資格がなくてもできる仕事とは

「介護=専門職」というイメージがありますが、業務内容によっては未経験・無資格でも始められる仕事があります。例えばデイサービスの送迎ドライバーは、要介護者の送迎が主な業務で、普通自動車免許があれば勤められます。

グループホームなどでは、利用者の話し相手や見守り、レクリエーションのサポートなど、特別な資格がなくてもできる仕事も多くあります。介護施設によっては「無資格・未経験OK」「研修制度あり」と明記した求人も多く見られます。

また、2024年度からは介護現場で働く無資格者に対し「認知症介護基礎研修」(約6時間のeラーニング等)の受講が義務化されましたが、これは入職後1年以内に受講すればよいもの。最初から専門的な知識がなくても、働きながら必要な知識・スキルを身につけていける環境が整っています。

あなたの経験が活きる!生活スキルが武器になる理由

主婦やシニア世代の方は、長年の生活経験が介護現場で大いに活きます。料理の手伝いや洗濯、掃除といった生活援助は、家事の経験があれば自然と対応できるものです。

また、人生経験豊富なシニア世代は、同世代の利用者との会話も弾みやすく、コミュニケーション面でも強みを発揮できます。「若いスタッフよりも年配のスタッフの方が話しやすい」という利用者の声もよく聞かれます。

会社員の方も、仕事で培ったコミュニケーション能力や問題解決力が介護現場で役立つことがあります。それぞれの経験や得意分野を活かして、無理なく介護の仕事に携わることが可能なのです。

副業として選べる介護の仕事例

具体的にどのような介護の仕事が副業に向いているのでしょうか。それぞれの特徴や向いている人のタイプを見ていきましょう。

週末だけOK!グループホームでの見守りスタッフ

グループホームは認知症の高齢者が少人数で共同生活を送る場所です。ここでのケアは、家庭的な雰囲気の中での見守りや日常生活のサポートが中心となります。

「週1回の夜勤からOK」「Wワーク歓迎」といった条件を掲げるグループホームも多く、週末だけ働きたい会社員の方に人気があります。夜間は基本的に利用者が就寝している時間が長いため、緊急時の対応を除けば比較的落ち着いた環境で勤務できることも多いです。

料理の手伝いや利用者との会話など、家庭的な環境での支援が中心なので、家事経験のある主婦の方にも馴染みやすい職場です。多くの場合、無資格・未経験からでも始められ、働きながら介護スキルを身につけていける環境があります。

直行直帰の訪問介護!スキマ時間を有効活用

訪問介護(ホームヘルパー)は、利用者の自宅を訪問して生活援助や身体介護を行う仕事です。自分の担当する訪問スケジュールを調整しやすいため、副業として取り組みやすい職種の一つです。

例えば、平日の空いた時間に1件だけ訪問する、土日のみ数件の利用者宅を回るといった働き方も可能です。直行直帰のスタイルなので、通勤時間を最小限に抑えられるのも魅力です。

ただし、訪問介護は介護保険制度上、原則として「介護職員初任者研修」(旧ホームヘルパー2級)以上の資格が必要となります。未経験であっても、最初は先輩ヘルパーに同行して掃除・洗濯等の生活援助を補助するところから始められる求人もありますので、資格取得と並行して経験を積むことも可能です。

送迎ドライバーからレクリエーション補助まで!選べる仕事内容

デイサービス(通所介護)では、送迎ドライバーやレクリエーションの補助スタッフなど、様々な役割でパートスタッフを募集しています。

送迎ドライバーは、朝と夕方の数時間だけの勤務が一般的。普通免許があれば応募可能で、高齢者の乗り降りのサポートや安全運転が主な仕事です。定年退職後のシニア男性に特に人気があります。

また、デイサービスでのレクリエーション補助や配膳、利用者の話し相手など、特別な資格がなくてもできる仕事も多くあります。「人と接するのが好き」という方にとって、やりがいを感じられる仕事でしょう。

デイサービスは日曜休みの施設も多いため、本業が平日休みのサービス業の方など、様々なライフスタイルの人が参加しやすい職場です。

副業介護で得られる給料以上の価値

副業介護の魅力は収入面だけではありません。様々な人との出会いや、本業では味わえない充実感など、お金には換算できない価値が得られることも大きな魅力です。

週末数時間で月数万円!効率良く副収入を得るコツ

副業介護での収入は勤務形態によって異なりますが、効率よく稼ぐコツもあります。特に夜勤は1回あたりの報酬が高いため、月に数回の夜勤で数万円の副収入を得ることも可能です。

介護施設での夜勤手当は施設によって異なりますが、1回あたり2〜3万円程度の施設も少なくありません。月に2〜3回の夜勤で5〜8万円の収入が見込めるケースもあります。

訪問介護の場合、時給は1200〜1800円程度(地域差あり)が一般的。1日2時間、週2回の勤務でも月に約2万円の収入となります。空いた時間を有効活用しながら、安定した副収入を得られる点が魅力です。

ただし、介護職の給与水準は他業種に比べて高額とは言えないため、「短時間で大きく稼ぐ」というよりは、「無理のない範囲で安定した副収入を得る」という考え方が現実的でしょう。

「ありがとう」の言葉がエネルギーに!やりがいの実感

介護の仕事の最大の魅力は、直接「ありがとう」と感謝される場面が多いこと。利用者から感謝の言葉をもらえたときの喜びは何物にも代えがたいものです。

本業ではなかなか感じられない「人の役に立っている」という充実感は、副業介護を続ける大きなモチベーションになります。「誰かの笑顔を見ると疲れも吹き飛ぶ」「社会に貢献できていると実感できる」といった声は、介護の仕事をしている人からよく聞かれます。

また、自分の働きが地域や社会の課題解決につながっているという誇りも、大きな価値の一つです。副業とはいえ、社会的に意義のある仕事に携わることで、充実感を得られるでしょう。

本業にも活きる!介護で培うコミュニケーション力

介護の現場で培われるスキルは、本業にも良い影響を与えることがあります。特にコミュニケーション能力や観察力、問題解決力は、どのような仕事にも応用できるスキルです。

介護現場では、言葉だけでなく表情や仕草からも相手の気持ちを読み取る力が求められます。この「非言語コミュニケーション」の能力は、ビジネスシーンでも大いに役立つでしょう。

また、介護では様々な状況に柔軟に対応する力も磨かれます。予定通りにいかないことも多い介護現場での経験は、問題解決力や臨機応変な対応力を高め、本業での業務にも活かせるはずです。

将来の自分への投資!セカンドキャリアの足がかりに

副業として介護を経験しておくことは、将来のセカンドキャリアへの準備にもなります。特に定年後も働きたいと考えている人にとって、介護職は年齢に関係なく活躍できる分野です。

実際に「定年退職後、本格的に介護の仕事に就いた」という人の中には、退職前に週末副業として介護を体験していたケースも少なくありません。そのような経緯があれば、ブランクなくスムーズに介護業界へ移行でき、副業から本業へのキャリアチェンジも実現しやすくなります。

また、介護に関する知識を身につけておくことは、自身の家族の介護や将来の備えにも役立ちます。副業として始めた介護の知識が、いざというとき身内のケアに活きたという事例も少なくありません。

初心者でも安心!介護職のキャリアステップ

未経験から介護の仕事を始める場合、どのようなステップを踏めばよいのでしょうか。介護職のキャリアパスと資格取得の方法について見ていきましょう。

介護の入門資格「初任者研修」を受けよう

介護の仕事を本格的に始めるなら、まずは「介護職員初任者研修」の取得がおすすめです。この資格は旧ホームヘルパー2級に相当し、介護の基礎知識と技術を学べる入門資格です。

初任者研修は130時間程度のカリキュラムを修了し、筆記試験に合格すると取得できます。費用は受講機関によって異なりますが、4万〜10万円程度が相場です。

費用面では心配かもしれませんが、実は様々な支援制度があります。自治体による資格取得支援事業では、一定の条件下で受講料を全額補助してくれるケースもあります。

ハローワークの職業訓練制度(求職者支援訓練)を利用すれば、失業中の方は給付金を受けながら無料で受講することも可能です。勤務先によっては資格取得支援制度として、勤務扱いでスクールに通わせてくれたり、受講費用を会社が負担してくれるケースもあります。

最近ではオンライン講座や週末集中コースなど、副業の人でも通いやすい初任者研修プログラムも増えています。地域の支援制度や資格スクールの情報を集めて、最適な取得方法を探してみましょう。

資格を取得すれば、できる仕事の幅が広がるだけでなく、時給アップにもつながります。副業として長く介護に関わるなら、初任者研修の取得は大きな武器になるでしょう。

定年後も安心!セカンドキャリアとしての介護職

副業として始めた介護の仕事が、やがて本業へと発展する可能性もあります。特に定年退職後のセカンドキャリアとして、介護職は多くの可能性を秘めています。

定年退職後のセカンドキャリアとして、介護職は多くのメリットがあります。まず、介護業界では60代、70代の方も現役で活躍しており、年齢による就職の壁が比較的低いと言えます。

訪問介護員(ホームヘルパー)の年齢構成を見ると、60歳以上が全体の約38.5%を占めるというデータもあり、シニア世代が重要な戦力となっています。年齢を重ねた分の人生経験や包容力が、介護現場では大きな強みになるのです。

また、セカンドキャリアとして介護職を選ぶ場合、副業時代に取得した資格や経験がそのまま活かせる点も魅力です。例えば定年前に週末だけ介護施設で働いていた方が、退職後にフルタイムで同じ施設に勤務するというケースもあります。

このように、副業として介護の経験を積んでおくことで、定年後のスムーズなキャリア移行が可能になります。「第二の人生で人の役に立ちたい」という願いを実現する選択肢として、介護職は多くの可能性を秘めています。

介護業界の未来と求められる人材像

介護業界は今後も拡大が予想される成長分野です。高齢化のピークが予測される2040年頃に向けて、介護サービスの需要は確実に伸び続けます。AIや介護ロボットの導入など省力化も進みますが、人によるケアの重要性は変わらないでしょう。

今後は特に「多様な経験を持つ人材」の価値が高まると予想されます。他業種での経験やスキルを持ちながら介護に携わる「複業型人材」が、介護現場に新たな視点をもたらし、サービスの質向上につながると期待されています。

国の政策面でも、介護職員の処遇改善は年々進められており、2024年度にはベースアップに相当する賃上げ(2.5%)が行われるなど、待遇面の底上げが図られています。こうした動きにより、介護職の魅力が高まり、副業から本業への転向もしやすくなることが期待されます。

副業として介護に関わる経験は、単に「今」の収入ややりがいだけでなく、将来のキャリアにとっても大きな価値を持つものなのです。

副業介護で人生に新たな彩りを!

「副業介護」は、介護人材の不足という社会課題と、多様な働き方を求める個人のニーズが交わる、時代が生み出した新しい選択肢です。週末だけでも、空いた時間だけでも、誰かの生活を支えるお手伝いができる。そんな働き方が今、多くの人に開かれています。

副業として介護に関わることは、収入面だけでなく、人としての成長や充実感、将来への備えなど、多面的な価値をもたらします。また、介護の世界に様々な人が関わることで、支え合う地域社会づくりにもつながるでしょう。

まずは自分のライフスタイルに合った介護の仕事を探してみてはいかがでしょうか。インターネットの求人サイトはもちろん、地域の介護施設に直接問い合わせてみることで、「隠れた好条件」の仕事が見つかることもあります。ボランティアや見学会から始めてみるのも良いでしょう。

あなたの一歩が、あなた自身の人生を豊かにし、同時に社会の大きな力になる。そんな素晴らしい可能性を秘めた「副業介護」に、ぜひチャレンジしてみてください。